国内クレジット制度Q&A(申請要件と注意点)
3-1 中小企業等が国内クレジットを申請する要件
3-2 中小企業等が国内クレジットを申請する際の注意点
3-2-1 申請が難しい排出削減事業者
3-3 国内クレジットを取引される際に差し引かれる補助率
3-3-1 地方自治体が民間企業に設備補助をした場合、地方自治体がクレジットを取得できるか?
3-3-2 地方自治体が保有する施設のCO2削減事業を国内クレジットとして申請する場合の補助率
3-4 CO2を削減した場合でも国内クレジットとして取引できない場合
3-5 国内クレジット制度を申請できる導入設備の要件
3-6 方法論
3-7 方法論として承認されていない技術の申請
3-8 既に設備を稼働している場合の申請
3-9 今後、設備を稼働する場合の申請
3-10 既に設備を稼働している場合、申請までに削減したCO2の国内クレジット取引
3-11 既に設備を稼働している場合の申請期限
3-12 既に設備稼働し、未申請のプロジェクトに対する制限の可能性
3-13 投資回収年数を原則3年以上とする申請要件
3-14 国内クレジットを購入する企業が見つからない場合
3-15 申請のために必要なCO2削減量
3-16 小規模排出削減事業の申請方法『バンドリング申請』
3-17 小規模排出削減事業の申請方法『プログラム型排出削減事業』
主な要件は次のとおりです。詳細は別項目でご説明します。
①業界団体が策定したCO2削減目標を課せられていないこと
②設備投資を行うこと
③国内クレジット認証委員会が承認した方法論に合致した機器を導入すること
④2008年4月1日以降に設備を本格稼働したこと
⑤導入する設備の投資回収年数が原則3年以上であること
⑥更新する設備は継続利用できること(故障など交換時期に達したものでないこと)
⑦設備の更新は法的な要請で行ったものでないこと(自主的に行ったこと)
⑧更新する設備が生成する熱や電気は自社内で自家消費すること(他者に売却しないこと)
⑨CO2削減量を計測するために必要となるデータを収集できること
⑩国内クレジットを購入する企業が決まっていること
3-2 中小企業等が国内クレジットを申請する際の注意点
主な注意点は次のとおりです。
①国内クレジット制度の中小企業等の定義
国内クレジット制度の中小企業は、法律上の定義の中小企業ではありません。
省エネ法1種の対象となっている中堅企業であっても、業界団体に加盟していない場合など、CO2排出量の削減目標を課せられていない場合には、申請できます。
一方で、法律上の定義の中小企業であっても、加盟している業界団体が策定しているCO2削減の自主行動計画の一員である場合や、大企業の子会社で同様に自主行動計画の一員である場合には、対象外となります。また、自治体の施設も申請できます。
②投資回収年数の計算は補助率を控除し純投資額
補助金を受給して設備を導入した場合、設備投資回収年数を計算する際の純投資額は、補助金を控除した数となります。
純投資額=設備投資額-補助金
③国内クレジットとして取引できるCO2削減期間
2008年4月1日以降2013年3月31日まで
3-2-1 申請が難しい排出削減事業者
①設備投資に対する補助率が高い場合
補助率が高い場合、設備投資回収年数3年以上の要件を満たせない場合があります。
②自己資金の少ない非営利団体
自己資金の少ない非営利団体が、CO2を削減する設備を導入する場合、国や地方自治体等からの補助金で設備投資額の大半を賄うことになります。この場合、高い補助率となるため、申請のメリットが小さくなります。
③使途が限定された補助金や交付金で設備投資を行った地方自治体の設備
地方自治体の設備であっても、国内クレジットを申請できますが、国などから、使途が限定された補助金や交付金を受け取って、それを設備投資に充当した場合には、設備回収年数の計算の際に、設備投資額から控除する補助金となります。
3-3 国内クレジットを取引される際に差し引かれる補助率
第15回(2010年10月1日)国内クレジット認証委員会における国内クレジット認証分から、補助率を控除するルールが撤廃されました。
第14回までに認証された国内クレジットについては、CO2削減量から補助率が控除されていました。
3-3-1 地方自治体が民間企業に設備補助をした場合、地方自治体がクレジットを取得できるか?
現行ルールでは、地方自治体が民間企業に対して設備補助を行った部分について、地方自治体がクレジットとして取得することはできません。
なお、東京都の排出権取引制度では、東京都が、太陽光発電設備の設備費用を補助した場合に、そこから創出されるCO2削減効果を、東京都が優先的にクレジットとして受け取る仕組みがあります。東京都は、排出権取引市場で太陽光発電のクレジットを売却することで、設備費用の財源の一部として回収可能となります。今後、このような仕組みが、国内クレジット制度でも導入される可能性はあります。
3-3-2 地方自治体が保有する施設のCO2削減事業を国内クレジットとして申請する場合
地方自治体が、国などから、CO2削減事業の設備関連費用に使途を限定されて受け取った資金(特定財源)の部分は、設備投資回収年数の計算の際に控除しなければならない補助金に該当します。
一般財源や地方債による地方自治体の資金は、控除しなければならない補助金に該当しません。
地方自治体の保有施設のCO2削減事業の設備費用に、一般財源や地方債から支出された資金が含まれている場合には、その部分は、設備投資回収年数の計算の際の純投資額として取り扱われます。
3-4 CO2を削減した場合でも国内クレジットとして取引できない場合
①運用改善によるCO2削減
国内クレジット制度は、設備投資を条件としています。昼食時間帯の消灯、工場の製造ラインの効率化、営業時間の短縮、工場の生産量の減少などの運用改善によって、CO2を削減したとしても、国内クレジットとして申請できません。
②単なるエネルギー転換
エネルギー転換と同時に、ボイラーの更新などの設備投資が必要となります。
③CO2削減量を計測できない場合
第三者が記録したデータや測定機器のデータがなければ、国内クレジットとして認証されません。
3-5 国内クレジット制度を申請できる導入設備の要件
①国内クレジット認証委員会が承認した方法論で特定している技術に合致すること
②更新対象の設備が、故障などの理由で継続的に利用できず、交換時期に来たものでないこと
(新設を対象とした方法論は除く)
③導入する設備が生成した熱や電気は自家消費すること
④設備の使用期間が、原則、法定耐用年数の2倍未満であること
さらに、各方法論では、その技術を導入した場合の詳細な要件が記載されています。例えば、都市ガスボイラへの更新の場合には、既存ボイラよりも高効率なボイラであることが条件となっています。
3-6 方法論
特定の技術や製品を使用した場合のCO2削減量の計算方法等を定めたもので、技術ごとに方法論が定められています。
3-7 方法論として承認されていない技術の申請
国内クレジット認証委員会に対して、新方法論を申請し、承認を得れば、国内クレジットとして申請できます。
ただし、新方法論の審査は厳しく、最近は、承認される技術がそれほど多くありません。
3-8 既に設備を稼働している場合の申請
2008年4月1日以降に、本格稼働した設備であれば、既に設備を稼働していても、申請することが可能です。
3-9 今後、設備を稼働する場合の申請
設備稼働前であっても、申請することが可能です。ただし、導入する設備が特定されていること、設備投資額がある程度固まっていることなど、承認審査の対象となる項目について、今後大きな変更がないことが必要です。
3-10 既に設備を稼働している場合、申請までに削減したCO2の国内クレジット取引
現時点では、遡って、国内クレジットとして取引できます。
3-11 既に設備を稼働している場合の申請期限
現時点では、申請期限はありません。
3-12 既に設備稼働し、未申請のプロジェクトに対する制限の可能性
京都議定書の国家間取引のルールであるCDMは、制度当初は遡って、既に設備稼働した案件についても承認しておりました。しかし、現時点では、既に設備稼働した案件を申請することはできません。また、排出権として取引できる期間も、原則、国連の承認を得た時からとなっております。
国内クレジット制度も、このCDMのルールに類似する制度であり、ガイドラインにおいても、制度施行前(2008年10月以前)に開始された設備に対しては、『個々の事情を勘案して、承認を行う』とされており、既に設備稼働した案件に対する留意点が示されています。
また、国内クレジット制度は、『国内クレジットの認証がない場合に、当該排出削減事業が実施されないことに基づく性状があること』、いわゆる『追加性』があることを要件としております。追加性の立証は、設備導入決定当時の過去の記憶をたどることになるので、設備稼働の時期から時間が経過すればするほど、この要件の立証は難しくなると考えられます。
3-13 投資回収年数を原則3年以上とする申請要件
国内クレジット制度は、『国内クレジットの認証がない場合に、当該排出削減事業が実施されないことに基づく性状があること』、いわゆる『追加性』があることを要件としております。
この追加性の判断の目安として、設備投資に対す費用対効果があります。
設備投資回収年数は次のように計算します。
設備投資回収年数=補助金額を控除した設備投資額÷ランニングコスト削減額
省エネルギーによる大幅なエネルギーコストの削減が見込まれる場合のように、設備投資回収年数が3年未満になる場合には、中小企業が自力でCO2削減設備の導入を意思決定できると考えられます。国内クレジット制度は、大企業等による資金支援によって、中小企業の設備投資を促進する仕組みです。大企業による資金支援等の後押しが必要でないと判断される場合には、国内クレジットとして承認されない可能性があります。
3-14 国内クレジットを購入する企業が見つからない場合
現時点では、申請できません。
国内クレジットを購入する企業が確定してから、審査機関の審査を受けることができます。
なお、京都議定書のルールであるCDMは、購入者が見つからない場合でも、審査を受けることが可能で、審査を受けて承認されてから、購入者を探すことも可能です。
3-15 申請のために必要なCO2削減量
特に、定めはありません。ただし、申請のために必要となる審査費用を上回る国内クレジット売却収入を得られるCO2削減量でなければ、申請による単純収入は赤字になります。
当初申請時には、国の補助を受けて、費用がかからなかった場合でも、CO2削減量実績に応じて、クレジット収入を確定させるため、翌年度以降も審査を受けなければなりません。その際、国の助成がなければ、審査費用を負担しなければならない可能性があります。
毎年、15万円の実績確認の審査費用を支払う場合で、譲渡単価が1,500円/t-CO2の場合には、CO2削減量100t-CO2/年以上の削減効果が必要です。【審査費用15万円÷譲渡単価1,500円/t-CO2】
2年に1回、実績確認の審査を受けることにした場合でも、50t-CO2/年以上の削減効果が必要です。
審査費用の助成がなかった場合のことを前提とすると、年間CO2削減量が50t-CO2以上でなければ、単純収入による申請メリットはありません。
3-16 小規模排出削減事業者の申請方法『バンドンリング申請』
小規模排出削減事業を一括して申請できます。『バンドリング申請』といいます。ビニルハウスにヒートポンプ等を導入した農家が数件集まった共同申請は、多くの承認事例があります。しかし、次のような申請条件があるため、少々使い勝手の悪い場合があります。そこで、『プログラム型排出削減事業』という申請方法も認められています。
●バンドリング申請の条件
①同一の方法論であること
②全ての排出削減事業が承認要件を満たすこと
③事業を追加してバンドリングを行わないこと
当初はビニルハウスにヒート―ポンプを導入していなかった、隣の農家が、今年から導入した場合でも、一から審査を受けなければならない
④個別の小規模排出削減事業に対して審査
審査費用は、小規模排出削減事業者の数に応じて発生するため、一括申請でも、それほど安くならない。
3-17 小規模排出削減事業の申請方法『プログラム型排出削減事業』
プログラム型排出削減事業による申請はメリットもありますが、条件も厳しいです。アグリゲーターと呼ばれる小規模排出削減事業の取りまとめ役が必要です。
●プログラム型申請のメリット
①事業を追加できる
②審査費用が安くなる
審査機関はアグリケーターのみに対して審査
③クレジットの買い手がつきやすい
クレジットの買い手はアグリケーターに対してのみ、国内クレジット譲渡契約を締結。また、CO2削減量も大きくなるので、買い手の選択肢が増える。
●プログラム型申請の条件
①アグリケーター(削減事業の取りまとめ者)を立て、削減事業の申請者となること
②アグリケーターは、責任を持って、各削減者から削減量のデータを収集し、各削減事業者に対して排出権売却代金の分配を行うこと
③総削減量500t-CO2以下